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アニメ『銀河英雄伝説』『新釈 眞田十勇士』『鬼神童子ZENKI』などのプロデューサー田原正利(正聖)の制作日記

田原正利のプロデューサー日記

『銀河英雄伝説』拾遺集3 | main | 「鉄人28号」の舞台
『銀河英雄伝説』拾遺集2 欧文とテロップ
『銀河英雄伝説』のロマンアルバム、泥沼の校正が続く。
キャラクター紹介のページ、よせばいいのにキャラクター名の下に小さく欧文スペルが入っている。それが間違いの元で、全くの別人のスペルが入っていたりする。小さいので向こうでも見逃しているのだろうが、明らかに「長さ」が違っていて、(例えばアンスバッハの下に何やらフルネームらしい長いスペルが入っているとか)パッと見ただけでも妙だなと思うものだが、それさえ気付かず、これが多発していたりする。
よせばいいのにというのは、そういう見逃しをする元をわざわざ作っているということと、ムックとしての編集上の明確な意図が感じられないでやっていることだ。何か欧文スペルが入っていた方がカッコがいいというデザイン的な意味合いしか持たせていない。入っていることにそもそも意味が感じられない。だから見落としもする。

欧文スペルを入れるのは作中のテロップで始めた事じゃないか、と言われそうだが、あれには一応意味がある。

当初『銀河英雄伝説』の映像化の際に悩んだのが、原作小説で漢字表記にカタカナのルビを振ってある言葉をどうするかだった。例えば「黒色槍騎兵艦隊」と書いて「シュワルツランツェンレイター」と読ませる、という類だ。
漢字表現での「意味」や「字義」「文学的格調」も大事だし、欧文表現の「語感」や「かっこよさ」も捨てがたい。台詞ではどちらかに統一せざるを得ないが、両方を生かす方法が無いか? ………そこでテロップを使うことにしたわけだ。しかし「黒色槍騎兵艦隊(シュワルツランツェンレイター)」というテロップはいかにも説明臭くてダサイい。それで更に考えたのが洋画の英文テロップに日本語の翻訳テロップが添付される形があるが、それを真似ようと言うことだった。『銀河英雄伝説』のアニメ化の際、基本の演出方針として「アニメアニメした演出を極力排除し」「洋画の実写映画のような映像作りを心がける」と言うのがあったので、それにも合致した。

つまり『銀河英雄伝説』の作中テロップは「もともと欧文で出ているところに日本語訳を付けました」というスタイルなのだ。
そもそも『わが征くは星の大海』でメインタイトルを欧文にして、『銀河英雄伝説』という日本語タイトルを遅らせて隅に小さく出しているのも「洋画の翻訳もの」っぽくしようという意図によるもので、その延長線上にあると言える。
言わば単なる説明ではなく「映像表現」の1ツールであり、演出の一部でもある。だから慣れて来ると絵コンテ段階でテロップが入ることを計算したカット割(レイアウトと秒数)にしている話数もある。

『銀河英雄伝説』が始まった頃は、テロップを演出として積極的に入れる手法は他では殆ど取られていない。何故なら当時はまだTV放送がフィルム納品で、テロップを入れるためにはフィルムに焼きこむ必要があり、手間と費用がかかるからだ。『銀河英雄伝説』は最初からビデオ納品だったので、それができた訳である。その後、バラエティなどでテロップを多用する手法が流行になったこともあって、アニメでも登場人物の名前などをご丁寧に毎回のように無理やり出している作品などもあるが、そういうのとは意図が違うのだと明言しておきたい。
『銀河英雄伝説』は登場人物も多いし場面も良く変わる。テロップはもちろんそれらを補足する意味で出しているが、多いだけに必要以上には出さないことも配慮しているつもりだ。例えば原則として同じキャラには3回までしか出さない(かなり間の空いた登場などは例外だが)とか、だ。レギュラーキャラクターまで毎回毎回テロップを出す某作品などは親切に見えて視聴者を馬鹿にしているとしか思えないが、そういうのと一緒にして欲しくは無いものだ。

それでもテロップが邪魔だと言う意見もあったので、DVD化の際には全てのテロップをデータ化し、テロップ無しでも見られるようにもしている。だがデフォルトはテロップありに設定されているように、テロップも演出の一部と思ってみていただきたい。

実はDVD化の際にテロップのスペルは全てチェックし直した。
お恥ずかしい話だが、DVDのリニューアル版になる前のものは間違いが多い。言い訳になるが実情を公表しておく。
1期のテロップ作りの際に、丁度社内の別セクションの某外国語大学出身の女子社員から、同じ大学の後輩の学生が翻訳などのアルバイトを探しているが何か無いかと言ってきた。本編製作で忙しいこちらとしては渡りに舟、と『銀河英雄伝説』の地名・人名のリストを渡し、大学の図書館などで「調べて」もらうことにした。外国語大学なら外国の人名の事典とか資料も揃っているだろうと期待した訳だ。
で、上がってきたリストを元にテロップを作成した。
ところが後になって基本的な大きな間違いが多いことに気付く。どうやら資料を調べるのではなく、日本語の語感からテキトウにスペルをでっち上げていたらしい。(全部が全部ではないようで、フランス語やロシア語の系統は良く調べているのに、肝心のドイツ語がテキトウだったりした)
気付いた時にはビデオは発売後で、取り返しがつかない。後の祭りと言う奴だ。
まぁ外国語大だし会社の人間の後輩だしと言って信用し、学生アルバイトに任せてしまったこちらの責任ではある。

もっとも『銀河英雄伝説』では帝国と同盟の「公用語」というのが出て来るが、それが英語やドイツ語だとは一言も言っていない。だからドイツ語のスペルと違っても「それは帝国公用語ですからドイツ語とは違うんです」と強弁することもできる。まぁだから一概に間違いではないとも言えるのだが………。

そうは言っても気になっていたことだったので、DVDでテロップを入れ直すときに全面的に改訂したわけだ。前に懲りたので、今回は全部自分で調べた。図書館で外国人名事典などと首っ引きで。
どうしても見つからなかった数人は「作った」………例えばオフレッサーはoppressor(オプレッサー)と言う人はいたが「オフレッサー」に該当する人が見つからなかったので「p」を「f」にした、とか。そういうレベルだが。逆にルッツのようにそう読めるスペルが何種類もある場合は主観で一番ふさわしそうなのを選んだ。
原作で表記されているものも盲従せずに「アニメ版はアニメ版」ということで、敢えて変えているものもある。(例えばスペルではないが「雷神の鎚」は原作では「トゥールハンマー」だが、一般に北欧神話では「雷神トール」と表記されるので「トールハンマー」にするとか)

だから、今のDVDに入っているスペルは一応自信はある。(そうは言っても人間のやること、書き写し間違いとかのつまらないケアレスが無い限り、だが)

で、それをちゃんと参照してくれていればいいのだが、「飾り」としてしか考えていないような今回のロマンアルバムの表記には、ホトホト困っているのだ。(と、話がそこに戻る)
見せられた刷り出しは小さいし不鮮明だし、ドイツ語独特のウムラウトとかエスツェットとか、ちゃんとなっているのかどうかまでは判別できない。こうなると「監修」の責任は持てないよ、本当に。
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